Bynum, William, The History of Medicine: A Very Short Introduction (Oxford: University of Oxford Press, 2008)
ウェルカム医学史研究所の黄金時代に所長を務めていたビル・バイナムが語る西洋医学の短い通史である。ヒポクラテスから現代まで扱っているが、バイナムが専門にしている19世紀が話の半分を占めている。
バイナムの医学史は、医学の5つの類型の重層的な発展という図式を基礎においている。その類型は、1. ベッドサイドの医学、2. ライブラリーの医学、3. 病院の医学、4. 共同体の医学、5. 実験室の医学、というように分け、それらの登場と相互作用を通じて、長い歴史をみようという図式である。もちろん、バイナムの師であるアッカークネヒトによる3つの類型の図式(ベッドサイド、病院、実験室)を発展させたものである。バイナムの図式は、アッカークネヒトよりも類型が2つ増えて、きめ細かく説明できる内容が増したことになる。「ライブラリーの医学」は、中世からルネッサンスにかけての古代テキストの編集などが医学の中心であった時代を念頭においているが、高度な情報システムの構築という近現代にまでつなげることができるし、「共同体の医学」は、公衆衛生から優生学、医療政策まで、その議論なしには成り立たなくなった20世紀以降の問題を扱う、「人口の医学」と呼んでいるものに発展していく。確かに、重要な類型化であると思う。