医学における実験室と臨床

医学における実験室と臨床

Sturdy, Steve, “Knowing Cases: Biomedicine in Edinburgh, 1887-1920”, Social Studies of Science, vol.37, no.5, 2007: 659-689.

砂原茂一『えごの実―砂原茂一先生自伝遺稿集』(清瀬:砂原茂一先生自伝遺稿集編集委員会1989

砂原茂一『臨床医学研究序説―方法論と倫理』(東京:医学書院、1988

 

砂原茂一(1908-88)は、戦後の日本の医学の領域で、結核リハビリテーション、薬と倫理などの重要な問題について指導的な立場にあり重要な業績を残した偉大な医学者の一人である。その著作は、広く歴史から素材を取りながら、現代の科学と倫理の問題を深く論じるものである。また、医学思想や医学と倫理については、澤瀉久敬と交流があり、死の直前に出版された『臨床医学研究序説』の冒頭には「澤瀉久敬先生に捧ぐ」と記されている。本来は医学概論・医学原論といった書物を書きたかったらしいが、それとは少し趣が異なった書物で「臨床医学研究序説」と題されている。1980年代といえば、川喜田愛朗の『医学概論』(1982)も出版された時期でもあり、偉大な業績を上げた医者たちが、歴史を踏まえて医学概論を書いていた時期ということであると思う。

 

 

医学部が医学史を教えたいということでコースを作るときに、彼らが本当に期待しているのは、砂原や川喜田のような授業だろうと思う。先日、医者であると同時に医学史家である学者の講演を聞いたときにも、彼がホプキンズで医学生に教えるときにも、彼らをプロの歴史学者にするつもりはないと言っていたのが印象的だった。一方で、私のような人文社会科学系の学者が医学生に医学史を教えるときに、砂原や川喜田とは違った方針をとるべきなのは間違いないが、それならどういう具体的な目標を作るるべきなのかということも、これからよく考えて実践して同業者にフィードバックする必要がある。