古代の科学・医学の比較史

Geoffrey Lloyd and Nathan Sivin, The Way and the Word: Science and Medicine in Early China and Greece (New Haven: Yale University Press, 2002)

 

異なった地域を比較する共同研究の一つのお手本を提供してくれる書物である。主題は古代のギリシアと中国における科学と医学。著者はジェフリー・ロイドとネイサン・シヴィンで、それぞれ、ギリシアと中国の科学史の指導的な学者である。その二人が30年近くにわたって話し合い意見を交換して温めてきた比較研究のアイデアを結晶させたのが本書である。書物の構成は、シヴィンが書いた中国に関する章とロイドが書いたギリシアに関する章に分かれているが、どちらの章にも、自分が専門とはしていない地域の事例と対照させて論じる部分が随所にあり、著者が細かい事例の意味づけに関しても突っ込んだ議論をしたことが伺える。細かい事例の意味づけだけでなく、どのような視点で比較をするかという大きな枠組みについても著者の間で十分議論がされていて、同じ視点で中国とギリシアの古代科学が比較されているという印象を持つことができる。

 

一番最後には、中国とギリシアの古代科学の特徴を対比させた短いけれども重要な議論が付されている。「自然」という特別な領域を設定して論争を作り出したギリシアと、それを世界の中の秩序の一つと捉えた中国。個人としての特殊性が重要であったギリシアの知識人対して、王に対して助言をする役割を持っていた中国の知識人。教師として生計を立てたギリシアの学者と王に雇われた中国の学者。もともと都市国家で発達したギリシアにおける多様性の尊重と、戦国時代から統一王朝が形成される時期に発達した中国古代科学における均質性の尊重。私的なことがらを公の場で論じてもよいギリシアと、公の知識人としての節制が必須であった中国。その他にもいくつかの対比が論じられている。私が書くと安っぽく見えるし、西洋と東洋に関するステレオタイプが反映されているように見える箇所もあるが、いずれも深く考えなければならない主題である。

 

「グローバルな科学史」という方向の授業で、最初にギリシアと中国を論じるときに、非常に便利な本である。私はそういう世界を駆け巡るタイプの授業をしたことはないけれども、しなければならない時代になったのかもしれないとも思う。