O'Sullivan, Emer. The Fall of the House of Wilde : Oscar Wilde and His Family. Bloomsbury, 2016.
Colm Toibin, "The Road to Reading Gaol", LRB, 30 Nov 2017.
麻酔法の著名な開始については、1846年のアメリカで始まり、すぐにヨーロッパに広められたことが古典的な地位である。日本では、それよりも40年以上前に全身麻酔を導入した華岡青洲の利用が著名である。先日古代エジプトの医学の記述を読んでいたら、頭蓋骨を切る開頭術があって比較的頻繁に行われ、手術のあと成功した例などを根拠にして古代に麻酔法があるというような記述があった。まだ何が基準になっているのか、私にはよくわかっていない。
面白いのが、男性の医師と女性の患者の関係で、男性が麻酔を用いて女性患者の意識を奪い、その間に性暴力に及ぶケースの事例である。日本だと、大正期にいくつか有名なケースがあったが、いまちょっと調べだせない。アイルランドの著名な作家で男性同性愛者であったオスカー・ワイルドの父親である Sir William Wilde (1815-1876) が、女性の患者に麻酔を用いて無意識にさせ、その間に彼女に性的な暴行をしたという訴えをされている。訴えがあったのは1864年で、女性の名前は Mary Travers である。ダブリンの法医学の教授の娘であり、ワイルドが耳鼻科の専門家であったため、ワイルドに1861年に指南してもらう。それから二人の間は異様に親密になっていき、色々とあって、トラヴァースは1864年に訴訟を起こし、その中では1862年にワイルドの診断中に麻酔を用いて意識をなくし、その間に性的に暴行されたというものであった。この訴えは、当時の発想に基づくと、難しい立論をしなければならない。1862年に性的暴行があり、それから二人は恋人になり、しかし1864年に、あれは暴行であったと初めて主張されるという主張である。性的暴行―恋人―訴訟というやや無理な発想に基づいており、当時の法定は、暴行ではなくて合意に基づいていたと判断している。
ただし、性の関係においてあれは暴行だとか、だから有罪であることを証明するためには、smoking gun (決定的な証拠)が必要である。そんなものは性に関しては普通は入手できない。