Boddice, Rob. The History of Emotions. Manchester University Press, 2018. Historical Approaches / Series Editor, Geoffrey Cubitt.
Boddice, Rob. The Science of Sympathy : Morality, Evolution, and Victorian Civilization. University of Illinois Press, 2016. History of Emotions / Editors Susan J. Matt, Peter N. Stearns.
先日櫻井先生に訳書の『歴史の中の感情』を送っていただき、感情論を勉強しておかなければと思っていた。たまたま History Today からの「今年の歴史の本」という特集が来ていて、感情の歴史の入門書が上げられていた。もう一冊、ダーウィンが感情をどのように位置づけたかという書物も書いているので、それも買っておいた。歴史の中での感情の使い方を知っておこう。
後者の書物の表紙は、医学史研究者で知らない人はいないだろう、アメリカの著名な外科医の肖像画。画家は Thomas Eakins という興隆するアメリカの優れた画家で、この作品は、フィラデルフィアの外科の教授であった Samuel D. Gross (Samuel David Gross, 1805-1884) を描いたもの。ここで行われているのは、麻酔を用いたものではなく、非常な痛みを与える大きな外科手術である。グロス教授がそれを行い、実在の助教授や助手や医学校の総長などが描かれている。グロスは非常に厳しい表情で、患者に非常な痛みを与えている手術の最中に、男性らしい厳しさをあらわしている。男子学生たちは皆でこの外科手術を固唾を呑んで見守っている。一方で、この患者の母親が、息子が激烈な痛みを感じている麻酔なしの手術のすぐ横に現れて、眼を両手で覆っているほどの共感を感じていることも描かれている。患者の母親が、この近さに接近することができたかどうかは、詳しい評論があるだろうから、それを読んでおきます。しかし、そうか、そういうマテリアルを使えるのかと、感情の歴史を一歩理解することができました。