Bailey, Gauvin A., Sheila Barker, and Museum Worcester Art. Hope and Healing : Painting in Italy in a Time of Plague, 1500-1800. Clark University : College of the Holy Cross : Worcester Art Museum, Distributed by the University of Chicago Press, 2005.
16世紀から18世紀のイタリアの絵画において、ペストに影響を受けた場面がどのように絵画となっているかを論じた優れた書物・画集である。ことに17世紀に力が集中しているのは、ペストの流行自体も黒死病以来の大規模なものになったから、そしてイタリアのバロック派の画家たちが、色々な趣向を深く描き込んだ作品を数多く描いているからだろう。
その中で、カルロ・コッポラという人物で、1640年から1660年にかけて活躍した画家の作品が印象に残った。特徴は、多くの死者が現実の風景の中で生々しく死に絶えていく作品であることである。一般的には、キリスト教的な絵画として、死者が数多い状況はそれほど書き込まず、むしろ悔悛の効果が高いことを描いている作品が多い。しかし、コッポラの作品は、ナポリの1656年の大流行に際して、ペストの死者が無数にでたありさまを描いたものが多い。そこに置かれた遺体、死体を包んだ布利用の方法、牛の車で遺体を引いた方法なども描き込まれている。非常に貴重な表現である。事実が分かるというだけではなく、絶望の情動が動くかのようなものもある。図版を手に入れることが難しいようなので、上のサイトをどうぞ。