日本の薬学の近代化・腹の虫・顕微鏡

長谷川, 雅雄 et al. 「腹の虫」の研究 : 日本の心身観をさぐる. 名古屋大学出版会, 2012. 南山大学学術叢書.
 
『「腹の虫」の研究』という名著があり、学生に教えてもらった素晴らしい書物である。「腹の虫」という概念に注目し、日本の近世から近代の医学、医療、文学、文化などを取り上げた書物である。日本の心身観・身体観に注目していて、非常に面白い議論を数多く展開している。
 
基本的な議論は、古代中世と近代を<中継する>概念としての「虫」という概念である。古代・中世の「霊」や「もののけ」というアニミズムの考えが否定されるときに、近世は、それは「虫」によって起きるのだと主張する。この動きは、アニミズムから離れて文明化していく方向へと一致している。それと同時に「疳の虫」などの近代的ではない概念も用いさせているという議論である。
 
一つの面白い議論で、今回の論文の背景で使わせていただく議論が、顕微鏡が日本に導入されたときのインパクトである。もちろん西欧の技術と観察の技法として大きなインパクトはあると同時に、伝統的な文化と融合しながら経過していくというパターンをとる。
 
顕微鏡で色々な虫を観察しようというのは自然な発想である。数多くの図像が残っている。国立科学博物館の図像を見るサイトがあるので、そこで土田何某がさまざまな液体の中の虫を観察した図像がある。それと並行して、「腹の虫」も「観察された」記録が残っている。1804年の『虫鑑』というテキストがあり、京都の誰の身体にはどのような虫がいたのかとい観察がされている。このような虫を「奇虫」とよぶ枠組みに合わせて、たしかに奇妙な虫である。この史料は、現在では国会図書館でアクセスできる。スクリーチ先生が得意な、日本人の医療が西欧化と融合して独自のものを作っていくという議論と重なる。
 
 

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国会図書館より。「虫鑑」2巻。