ネズミ大発生


 ネズミの話が続く。文献は宇田川竜男『ネズミ 恐るべき害と生態』(東京:中公新書、1965)

 ハーメルンの笛吹き男ではないが、日本でも各地でネズミの大発生が繰り返されてきた。この本で紹介されている話の中では、富士宮市の富士山山麓で、1841年、1902、1913、1918とネズミの大発生があったという。レミングで有名な自殺行為の記録もある。1837年には今の飯田市の大平峠の谷底を流れる小黒川の死体はネズミで埋まり、1935年には、箱根連山で笹が大いに実り、異常発生したネズミが芦ノ湖に飛び込んで死んだという。笹といえば、笹が60年周期で実った年にネズミの大発生があるというが、笹だけではないそうである。1958年には東北六県でブナの実が大量に実り、推算で1000万匹のネズミが発生したという。これらは主にハタネズミという、人家に住まない野ネズミだが、家ネズミの代表のドブネズミも大量発生する。1950年ごろから宇和島の二つの島で始まったドブネズミの大量発生の記録が詳細に語られている。 ネズミの大発生の可能性はそこら中に転がっているじゃないか。

 日本のペスト伝播のメカニズムに関してひそかに(笑)考えていた幾つかの仮説が、とんでもなく間違ったものだということが分かったのは大収穫である。

 画像はアメリカにおけるペストの常在宿主、プレーリードッグ。