梅毒と芸術的創造性?


 19世紀の芸術家たちの梅毒病歴を詳細に調べた書物を読む。文献はHaydon, Deborah, Pox: Genius, Mandess and the Mysteries of Syphilis (New York: Basic Books, 2003).

 歴史上の人物がどんな病気にかかっていたかを調べるのは、医学史の知的フロンティアではないが、歴史に興味があるお医者さんたちの趣味として広まっていて、この手の本や論文は多い。ハイドンの書物は14人の人物に関して、梅毒に罹患していた証拠をレヴューした書物。それを列記すると、ヴェートーヴェン(?)、シューベルトシューマンボードレール、リンカーン夫妻、フローベールモーパッサンゴッホニーチェオスカー・ワイルド、カレン・ブリクセン、ジョイス、ヒトラー(!!??) 。事実と推測の区別が分かるように書いてあって、非常に読みやすい。何よりも面白いのが、ここで研究されている人物の多くが、罹患の事実を知りつつもそれを秘密にしていたことである。19世紀の天才の病といえば結核が有名だが、実は梅毒のほうが現実にかかっていた天才は多いかも。(笑)

 豊かなマテリアル満載で、19世紀の梅毒の文化史を研究するとしたら、最初に読まれるべき本である。