ブラジル移民の黄熱病

 経済開発とグローバライゼーションと病気の歴史の大著を読み返す。文献はWatts, Sheldon, Epidemics and History: Disease, Power and Imperialism (New Haven: Yale University, 1997).

 この文献は以前にも取り上げたが、読み返して面白い情報があったのでもう一度書く。医学史の研究者の間では必ずしも高い評価を受けてはいない本書だが、やはり集めた情報の量が多くそれらの質は高い。
 
 アメリカに発疹チフスがなかったという話をしたが、同じように中国には黄熱病がなかった。黄熱病を媒介する蚊はいるにもかかわらず、である。黄熱病に悩まされなかった中国の農民はしかし、黄熱病が蔓延する外国に移民したときに、高いツケを払うことになる。免疫を持たない彼らは、例えば年季契約労働者としてブラジルの奥地に行くと、黄熱病でばたばたと死ぬことになったという。彼らの雇い主の側から見ると、この事態は魅力的だった。契約した年季が終わると、彼らに帰りの船賃を払わなければならなかったが、途中で死んだ場合にはこの経費がかからないからである。ワッツが好きそうなエピソードだけど、あまり知られていない面白い話である。きっと日本人のブラジル移民も、奥地に行ったら、だいぶ黄熱病にやられたのだろう。先日読んだブラジル移民の日記には出てこなかったけれども。

 私はまだ読んでいないけど、ワッツはラウトレッジの Themes in World History のシリーズから Disease and Medicine in World History と題された短い本を書いている。授業の関係で、この手の本は読まなければならない。短い本で良かった。