『精神医学 死を生み出す産業』

 精神科医の犯罪を告発するkebichan さんたちが作成に関与されたDVDの一部を見る。市民の人権擁護の会提供の『精神医学 死を生み出している産業』。

 豊富な資料を惜しげもなく使い、それに高度な処理を施した映像にまず驚く。効果的なナレーションと字幕。<市民の人権擁護の会>というと何となく地味な映像を想像する人がいるかもしれないが、このDVDは視覚的にインパクトがものすごい。効果音にあわせて短いクリップが連打される映像は、明らかに映像のプロが、かなりの資金と時間とエネルギーを費した仕事である。歴史やドキュメンタリーというよりMTVのクリップのような魅力すらある。教室で見せると学生を完全に虜にすることができることは間違いない。私が見た範囲では、史実は問題ない。かなりマイナーな史実も的確に使われており、アカデミックな歴史の専門家が関与していることを伺わせる。

過去と現在の事実を「解釈」する仕方については、当然見解の相違が出てくるし、このDVDは「精神医学批判」のミッションを持っているから、誇張と単純化がある。たとえばDVDの冒頭近くで現れた「精神医学が治療した患者の数はゼロである」という言明は、私は信じない。あるいは、このDVDが伝えている「史観」-精神医療における権力と薬物の濫用を生み出している原因は精神科医の金銭と権力への強欲であるという解釈-には、私は全く賛成できない。

 しかし、このDVDは歴史の学術論文ではない。これだけのインパクトがある映像を作り、なおかつ高い水準の史実の精確さを保っているのには、賛嘆の念を禁じえない。そして、この媒体を日本に紹介され、字幕をつけることで飛躍的にアクセシビリティを高めた kebichan さんたちの情熱は、心から尊敬する。このDVDも彼のブログも、アクセスすることが難しい情報を、誰もがアクセスできるようにするという、最も基本的な貢献をしている。