授業の準備で、精神病院を舞台にした小説を読む。文献は、帚木蓬生『閉鎖病棟』(東京:新潮文庫、H9)
筆者は精神科医で、医療を素材にした数多くの小説で知られている。私はこの作家の作品を読むのは初めてだったが、ファンが多いのも頷けた。平成のネオ・ヒューマニズムとでも言うのだろうか、精神病院の患者たちの群像を、患者たちの人間らしさを強調しながら、肩の力を抜いた優しい筆致で描いている。そこには「何かと闘う」という闘争的な精神医療改革の身振りはない。精神医療の歴史がそれで埋め尽くされているといってもよい、改革の闘士たちの姿を思い浮かべることはない。それが良いことかどうかは分からない。
これと組んで読ませる作品を考えているうちに、何とセットにして読ませるかで、学生の反応が大きく変わってくるテキストだということに気づく。平凡に『カッコーの巣の上で』なんかを考えているけれども、皆さんいいお知恵はありませんか?