二つの文化

 必要があって、C.P.スノウの「二つの文化」論を読む。文献は、C.P. Snow, The Two Cultures, intro. By Stefan Collini (Cambridge: Cambridge University Press, 1998). この刊本には、 1959年のオリジナルの出版から4年たって、批判者に答えた小文である The second thoughts と、碩学のコリーニの丁寧なイントロダクションがついて、お買い得である。みすず書房から翻訳も出ている。

 もともと1959年のケンブリッジ大学のリード・レクチャー。現代文明における文系の知識人と理系の知識人の間の亀裂の問題を「二つの文化」という概念で語った有名な講演で、「二つの文化」という概念を定着させた古典である。読んでみると、それほど深く考えられた分析だとは思わないが、優れた講演らしく記憶に残るエピソードが散りばめられている。その中でも、「熱力学の第二法則を説明できない文系の知識人」と「ディケンズを<読んだことがある>と答える(=楽しめなかった)科学者」の対比は有名だろう。「<熱力学の第二法則を説明できますか?>という質問は、文系の世界で言うと<シェイクスピアを読んだことがありますか?>にあたり、<質量とは何か説明できますか?>という質問は、<あなたは文字を読むことができますか?>にあたる」という名文句も、しばしば引用される。

 この「二つの文化」の亀裂を修復するために、文系の大学生にも物理学のイロハを教え、理系の大学生にもシェイクスピアのイロハを教えようというカリキュラム改革の話をよく耳にするけど、そういう単純なことで乗り越えられる亀裂ではないでしょう?という話をした。あとから知ったことだけれども、そこには、まさにそのような論客が並んでいたのだそうだ。道理で、なんか会場の雰囲気が突然凍りついたと思った(笑)。