『東京 都市の明治』

必要があって建築から見た明治の東京学の古典を読む。文献は初田亨『東京 都市の明治』(ちくま学芸文庫、1994)

 本書は1981年に出版された書物である。江戸から東京への建築の変遷を、単調な西洋化論から救うと同時に、建築の様式の分析を超えて、都市は人々がどんな経験をする空間だったのかという当時は新しかった視点を切り開いた名著である。前者の視点によって東京の建築史ははるかに陰影に富むものになった。明治初期の横浜・東京で開花した和洋折衷様式を、日本の職人や大工たちの新しいものを取り込む能力と旺盛な好奇心の産物として積極的に捉え、明治中期以降の土蔵建築からなる東京を、不完全な西洋化としてではなく、政府が特に銀座で推し進めようとしていたレンガ造りの街区に対抗する、人々の伝統への回帰とみなす。西洋建築の本流を学んだお雇い外国人や東大で学んで留学したエリート建築家ではなく、より広範な人々の選択により造られた明治の東京の像が浮かび上がってくる。一方後者は、ショー・ウィンドウなどに象徴されるような、街そのものを楽しむような新しい文化を人々が覚えるようになる過程に触れている。

 読み始めてすぐに、私の研究に直接関係ある話題は出てこないことが分ったけれども、面白かったので一気に読み通した。