『ドグラ・マグラ』

必要があって夢野久作ドグラ・マグラ』を久しぶりに読む。米倉斉加年の妖しい画が表紙を飾っている角川文庫版。今の研究の流れでいずれは本気で読まなければならない重要な作品だけど、腰を据えて本気で読んだことはない。今回も、まだこの本が面白くなるほど私の研究が進んでいないことを十二分に確認した(笑)。

九州大学医学部の精神医学教室を舞台にした推理小説。主人公の精神病患者は大学病院に収容されているが、自分の先祖が犯した変態的な凶行の記憶を深層心理に持っていて(「心理遺伝」)、その凶行を再現した犯罪が行われる。彼を診察している大学教授が、心理遺伝のメカニズムを知り、それを利用してその患者を操っていると同時に、その患者の深層心理の中の事件に巻き込まれていき、そして患者の父でもあったという一応の謎解きが与えられている。

主人公の患者のさらに遠い先祖は唐の玄宗の時代の絵師であり、彼が描くところの、美女が死んで腐乱していく絵巻物が重要な小道具になっている。