必要があって、ヨーロッパ史の教科書を読む。文献は、Cameron, Euan, The Sixteenth Century (Oxford: Oxford University Press, 2006).
「経済」「社会」「宗教」「思想」「対外発展」などの色々な主題の専門家が集まって書いた書物で、その出来には若干のムラがある。自分の専門に近いから点が辛くなるということもあるかもしれないけれども、「思想」の部分は、断片的でちょっとがっかりした。その代わり、編者自身が書いている「宗教」の章は、ルター派とカルヴァン派の違いをとても明確に書いてあって、前者は君主が選んだ結果としての宗教改革にいたり、後者は、個人と少数の共鳴者が実践するところから出発した宗教改革になるというくだりが、いま書いているパラケルスス主義についての章をまとめる上で、とても大きなヒントになった。
パラケルスス主義の錬金術的な医学というのは、それまでの医学にはない仕方で、医者の生活の高度に私的な部分に重心を置いたものであった。「哲学者の石」をはじめとして、化学的につくられた薬というのは、実験室での孤独な作業の中で作られるものである。患者を診て、処方を書いて薬屋に渡すというルーティンの対人的な関係とは違う個人のあり方が、錬金術的な医者には大きなウェイトを占める。その部分を書く上で、カルヴィニズムのインテンスに私的な宗教実践のあり方は、とても参考になった。