必要があって、19世紀の神経学者、ブラウン=セカールの講義録を読む。文献は、Brown-Sequard, C.E., Course of Lectures on the Physiology and Pathology of the Central Nervous System (Philadelphia: Collins, Printer, 1860). 医学史系の本のリプリントを沢山だしていてお世話になっている Kessinger からのリプリント。
ブラウン=セカールは、最終的にはパリに定住して、クロード・ベルナールの後を襲うコレージュ・ド・フランスの教授になったけれども、フランスを含めたコスモポリタンというにふさわしい経歴を持っている。父はフィラデルフィアの商船の船長のブラウン、母はフランス系のセカールで、生まれ育ったのはフランスの植民地だったモーリシャス、パリで医学を学んだあと、第二帝政が成立するとイギリスに移住し、ロンドンやハーヴァードなどで教えたのちに、コレージュ・ド・フランスの教授となった。1889年に、イヌの睾丸をすりつぶしたものを自分で服用したら、若返って頭の働きが明晰になったと報告して、センセーションというか、スキャンダルを引き起こした。この時期から20世紀の半ばにかけて、一流の医学者が、民間信仰と区別がつかないような健康法に走ってしまう蛍光があると思う。これはなぜか、気に留めておこう。ちなみに、若返ったと自称したブラウン=セカールはその数年後に死んでしまったのは、ちょっとまずかった(笑)
この本は、神経学の高度な画期的な発見を伝えるもので、その内容をテクニカルに正確に記述することは、私にはできない。(感覚神経の「交差」が起きる位置に関する発見だと思うのですが・・・)動物実験、臨床の症例、19世紀の医者たちの論文のほか、ガレノスまで引用されて議論されている。ガレノスは19世紀まで生きていたといわれることがあるけれども、なるほどと実感する。スタイナハたちが、去勢オスに卵巣を移植したりしたときにも、アリストテレスを引いていたことを思い出した。
画像は、ブラウン=セカールの写真。