戦争と疫病

必要があって、戦争と疫病の歴史地理学の書物を読む。文献は、Smallman-Raynor, M.R., and A.D. Cliff, War Epidemics: an Historical Geography of Infectious Diseases in Military Conflict and Civil Strife, 1850-2000 (Oxford: Oxford University Press, 2004).

著者のスモールマン=ライナーは、ずっとセカンドかサードのオーサーの仕事ばかりしてきたという印象がある。 ケンブリッジでずっと教えてきた疾病の歴史地理学の巨匠である、ハゲット、クリフのチームの一員で、だいたいこの二人の後に名前が挙がっていた。 これは、私が知る限りでは、スモールマン=ライナーが初めてファースト・オーサーになって書いた単行本である。

800ページの大著で、文献一覧だけで50ページもある。戦争と疫病の問題を古代からサーヴェイしているが、議論の中心は、データがそろ1850年から2000年の戦争に伴う疫病である。このチームの特徴である、大きな傾向を鮮やかに浮かび上がらせるシンプルだけれども鋭い計量的な処理は、この書物でも十分に発揮されている。そして十八番である、地図を駆使した洗練されたプレゼンテーションは、惚れ惚れとするようなものである。表・グラフ・地図と、授業で使いたくなるようなものばかり、どれもたくさんあって、「list of tables 」だけで25ページくらいある(笑) 戦疫そのものだけでなく、疾病の歴史に興味がある人には、絶対に必要なレファレンス。新品で買うと4万円するけれども、これは、内容の豊かさに較べて、安い。