必要があって、いただいた書物を読む。文献は、杉田米行編『日米の医療―制度と倫理―』(大阪:大阪大学出版局、2008)
医療サービスの提供の仕方は、どの先進国でも問題になっていて、どのような制度を設計するのかという研究も盛んに行われている。一方の極に、財源は税で、供給は公立施設を中心にした、イギリス、カナダ、スウェーデンの国営医療モデルがあり、反対の極に、民間保険と私立施設を中心にしたアメリカの市場型モデルがある。日本は、ドイツやフランスとともに、財源は社会保険で、施設は公私が混合しているという社会保険型のモデルである。アメリカでも、45%は公的支出であるが、現役世代とその扶養家族がもっぱら民間保険に頼っている。これは、患者と保険者と医療提供者が市場を通じて調整するというシステムになり、保険数理上の公平(給付反対給付均等原則)を追求してリスク選別が行われるので、不可避的に無保険者が出てしまい、いま、アメリカの人口の15%強が無保険である。リスクに立脚する保険数理上の公平と社会政策的な意味での公平とは別の概念なのである。また、多くの患者が無理をして最新最高の医療を求める傾向が出てくるため、医療費が必要以上に膨張する。また、所得と医療サービスの費用との関係(医療サービスの所得弾力性)、アメリカでは0.54 で、日本では0.03 となる。アメリカでは、どれだけ高価で優れた医療を受けているかということと所得の間に関係があるのに対し、日本では所得とほとんど関係ない。
日本の医療保険分野の二大プレイヤーは厚生省と日本医師会で、1950年代・60年代には両者の対立は、まさに竜虎の争いの観を呈していたといわれる。(この数十年は厚生省の一人がちが続いているそうだけど。)一方、アメリカでは、医療保険分野において、鍵を握ったプレーヤーはAMA(アメリカ医師会)である。AMAは、1910年代から40年代にかけて、もともと公的な保険はもちろん、民間保険にも反対していた。診療と処方という医者の権限が侵されるというのである。そして、この時期に国民皆保険の試みが次々に挫折するなか、1940年代に民間保険を条件付で受け入れ、48年に明確な指示を表明する。AMAの後押しをうけて、民間保険は急速に拡大し、いったん定着してしまうと、それは既得権益をもち、自己を維持するシステムを機能させる。