必要があって、新村拓編『日本医療史』を読む。新村拓編『日本医療史』(東京:吉川弘文館、2006)
日本の医療について、社会の中での医療の視角を取り入れた数少ない古代から現代までの通史・概説である。戦国時代と近世の章は、私が知る範囲では飛び抜けて優れた記述になっていて、この書物をこれまで知らなかった不明を激しく恥じる。特に、売薬の起源について、寺院が施療用につくった合わせ薬が、公家・武家の間で贈答品として流通した段階を経て、寺院が売り出して一般家庭用に流通するようになったという重要な歴史的な経緯は、私はこの書物の記述を読んで初めて気がついた。西大寺の豊心丹、唐招提寺の奇効丸、東大寺の奇応丸が、これらを基にして家庭薬として広がった。伊勢の万金丹や大和の陀羅尼助(ダラニスケ)なども、この流れで商業化されたと理解できる。
また、修験や山伏についての記述も入門者には素晴らしかった。山伏が治療した病状リストだけでなく、病因リストまである。323件の病状のうち、「神経症および脳病」は39件もある。病因としては一番多いのは女の生霊だった。これは吉家準の『修験道儀礼の研究』から取った表とのこと。