『世界像革命』

必要があって、E. トッドの『世界像革命』を読む。トッドはヨーロッパと世界の家族構造に着目して一連の話題作を書いている歴史学者。この書物は、解説、短い論文、来日したときの講演と質疑応答の翻訳などで、きっと入門書として優れているのだろう。

トッドの議論の中核にあるのはシンプルな因果関係の仮説である。それぞれの社会は家族を形成するときの規則を持っており、この規則が人々に「先見的な形而上学的な。日本の家族は直系家族といわれるもので、親夫婦と跡取りの夫婦が同居している。このルールは、韓国のほかに、ドイツ、スウェーデンなどで見られる。北フランス、イベリア、イタリアなどの「ラテン系」と東欧では、平等主義的核家族。これは、結婚すると別居して核家族を作り、兄弟間は平等に扱われる。ここから平等性が失われて、兄弟間の平等に無関心なのが絶対核家族というルールである。これは、イングランド、オランダ、デンマークなど、ヨーロッパでの地域は多くないが、特にイングランドは世界史的に重要な役割をはたし、北米や南半球のイギリス系植民地に広まった。ユーラシアの最も広い地域、すなわちロシア、中国、ヴェトナム、北インドとトスカーナでは、外婚的共同体家族という形式がとられている。

これらの家族形成の形態が、子供を教育する傾向(識字)、脱キリスト教、工業化、受胎調節などの近代化のイデオロギーに大きな影響を与えた。

近代性、特にヨーロッパ型民主主義の主要な成立は、個人の権利の尊重を重んじた絶対核家族のイギリス、普通選挙にいたった平等核家族のフランス、社会保障という組織の中に個人を組み込むことを重んじた直系家族のドイツが、それぞれ大きく貢献した。自由主義的民主主義は、自由と平等を掲げる平等主義的な核家族のフランスと、自由に依拠する絶対核家族のアングロサクソンの対立的な競合の中で完成した。しかし共産主義崩壊後の主要イデオロギーは平等の契機を脱落させた自由主義であり、その意味でアングロサクソン型の家族形成に由来するイデオロギーが対抗馬を持たない状態となった。