エラスムス『格言集』

欲しかった本が少し前にリプリントで出たので喜んで買った。文献は、Erasmus, Erasmus on His Times: a Shortened Version of The Adages of Erasmus,by Margaret Mann Phillips (Cambridge: Cambridge University Press, 2009)

エラスムスは16世紀のベストセラー作家と言ってもよく、彼の『格言集』は、古典語の「名句」を選び、そこに込められた叡智を語るという形式で次々と改訂を重ねていった書物である。主題分けなどの特別な構成や体系性をあたえずに、むしろ筆の赴くがままという形で自由に書きならべ、書き足していった書物で、吉田兼好の『徒然草』と少し似たところがある。人文主義の思想を、宗教改革と戦争に揺れるヨーロッパのエリートと知識人の多くに伝えた傑作であるという。これには簡略版の英訳があって、その書物をずっと以前に図書館で偶然手にとって読んでみたときに、なんという明晰で構造的な文章で、美しい内容をもつ書物だろうと感動した。

それから20年近くたってその本の復刻を読んで見ると、ますます美しい文章だと思う。(きっとラテン語のオリジナルはもっといいのだろうけれども。)昨日は、Dulce bellum inexpertis (「戦争は未経験のものにとって甘い」)を寝る前に読んだ。どうでもいいことだけれども、「悪徳は海に似ている。それを締め出す力を我々は持っているが、ひとたび入ってしまうと、そこらじゅうにはびこってしまう」という一節は、海を締め出す力を発揮して作ったオランダならではの比喩ですね(笑)