台湾原住民(高砂族)の精神医学的研究
米山達雄・分島俊「高砂族の精神医学的研究」『台湾医学会雑誌』vol.40, 臨時号、1941: 1-31.
民族の比較精神病学的な研究は、帝国医学の広がりや、クレペリンが20世紀の初頭に提唱したことなどから、世界各国で実施され、日本でも戦前には盛んであった。もっとも著名なものは1930年代に始められた内村祐之のアイヌの精神病学的研究であり、30年代の後半には台北帝国大学が中心になって高砂族の精神病学研究が行われた。
この調査は昭和13年(1938)から始められたもので、関係警察官署に調査カードを送り、必要事項を記入して返却させたものである。直接精神科医が訪問したものではない。高砂族については徹底した管理の方式がとられていたので、精神病調査をその中に組み込むことはたやすかったようである。「元来高砂族は治安、教育、衛生および産業など生活の全般にわたりすべてが理蕃当局の指導監督のもとに行われている関係上、この種の調査は徹底しうる点が特徴で他で臨まれぬ便宜がある」
全体に、文明化と精神疾患の関係が一つの主要な論点であり、当時の説としては、文明化とともに精神疾患の発現が頻繁になると考えられていた。また、この問題についてはドイツの研究状況をもっと知らなければならないが、重要だったのはやはりユダヤ人の精神疾患であり、ユダヤ人においては近親結婚が多いために遺伝的な素質に帰すべき疾患、たとえば躁病や分裂病や神経質が多いとのこと。日本の研究者にとっては、突き刺さるような鋭さを持っていた言葉に違いない。