心理学の実験 - 不眠記録の達成

 
Quora Digest で読んだ話。1965年にアメリカの17才の高校生男子が11日間(264時間)一睡もしなかったという記録を打ち立てたという記事。これは心理学の研究者などによって科学的に測定されながらの記録達成であり、科学的な権威がある記録であり、いまだ破られていない。ただ、それと同時に、破ることが原理的に難しい記録である。睡眠とは何か、どんな睡眠を検出できるのかは、その時代の知識と技術によって変わってくるから、この11日間という記録は、1960年代の知識と技術の枠組みの中で達成されたものである。それから50年すぎた現在では、睡眠に関する知識と技術の双方が大きく変わっていて、新しい枠組みの中での不眠ということになってしまう。
 
もう一つが、この実験自体は酒の席で笑える小噺であるが、この実験をめぐる心理学などの状況は、必ずしも笑い話ではないだろうと思う。被験者の Randy Gardner には長期的な影響は出なかったけれども、基本、なにが起きるか分からない実験だと私は思う。それよりも重要なのは、同時期に他のさまざまな心理学的な実験が人間をサンプルにして行われていたことである。精神医学の世界でも、薬物を取って何が起きるかを実験すること、外界との接触を断って完全に孤立した状態に何日間も置くなど、さまざまな被験者に有害な実験が行われていた。そのような事例に関する本で、以前から読みたいと思っていた本を買った。一般向けの本だが、科学史を大学院で学んだ実力ある書き手によるものである。英語だとKindleで1,300円くらい。日本語に訳されていて、これは数百円で買えます。年末年始の空いた時間にぜひどうぞ。
 
Boese, Alex. Elephants on Acid : And Other Bizarre Experiments.  London: Boxtree, 2008.
 
奇想天外な科学実験ファイル : 歴史を変えた!?
アレックス・バーザ著 ; 鈴木南日子訳