花柳病と性欲と食餌について

福田, 眞人.(2009). 病院と病気 (Vol. 55): ゆまに書房.
 
大正期と昭和戦前期に刊行された三冊の書物を復刻し、福田先生の解説を付した書物である。三冊の書物は、澤田順次郎『花柳病院』(1913)、ヨゼフ・ベルトラン『神山癩病院概況』(1914)、杉山幹『脳病院風景』(1937)である。私は『脳病院風景』を読み、精神病院を表象する言説のことを考えてきた。江戸風の粋な感じもするし、行政風の官僚型の感覚もある、不思議な本である。今回、たまたま澤田順次郎『花柳病院』を読んでみた。著者の澤田は医師ではなく物書きで、ことに性や性科学、発生学、遺伝、優生学などについて数多くの書物を書いているという。それが関係するのかどうかわからないが、なんておかしい部分だろうと改めて思った箇所がある。色欲と食餌の問題である。
 
花柳病に関して、面白い言説が多い。一番多いのは軍人で、次いで学生、商人、労働者の順であり、軍人が多いのは発見の仕組みがあるからだとか、ルーデサックは一個につき3-4銭、一ダースで30-40銭、一回使用するごとにルーデサックを捨てるのではなく、きちんと洗ってたたんでおくと30-40回は使えるものだとか、色々なことを知れる本である。一番面白かったのが、何を食べると色欲が高まるかという指導である。獣肉でいうと、色欲をあおる効果が高い順で、豚肉、牛肉、羊肉であるという。一位が豚肉というのが私の感覚と違う。牛乳は色欲を興奮させるものではないというのは共感できるが、鳥の卵は色欲を著しく大きくするというのは私の卵好きと違う感じがする。カメの卵も色欲を強くするというのは、私が一度も食べたことがない食品なので、それでいい。魚は色欲を興奮させるが、カニはその効果がないというのは、私の直感の逆である。小麦は色欲を強めるが、お米のご飯はその効果がないというのも、よくわからない。一番読み直したのが、色欲を強くするお酒で、一位はエールと黒ビール、次にワイン、日本酒はたいしたことがないという議論がよくわからなくて、確認のためにもう一度読み直した。エールを飲むと色欲が湧くというのは、私が持っているエールの感覚の逆であるかのように思う。
この成立と不思議さは楽しい議論になるだろう。現役を退職して小難しい本を書くのをやめて楽しい医学史の本を書けるようになったら、こんな方向の本でも書いてみようかしらという思いが現れた。これは加齢ということである。ううむ(笑)