18世紀アムステルダムの「ミニチュア薬種商店」の図柄入り書物について

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アムステルダム国立美術館は一回か二回行ったことがあり、レンブラント『夜警』に感動するという素直な経験をした。その時にこの作品が補修修理作業をしていたのか、この「ミニチュア薬種商店」をかりに展示していたとしても気がつかなかった。医学史や科学史はもちろん、歴史の研究者や医学部や薬学部の大学図書館なども買っておくのがいい。18世紀にミニチュア化された薬種商店を模したタンスである。高さは2メートルを少し超え、幅が1メートル弱、奥行きが74センチというから、立派なタンスである。それが、複雑で手が込んだ無数の扉、棚、標本箱を埋め込むように持っており、そこに数多くの薬剤、植物、鉱物、金属などが小瓶、磁器、標本箱などに入れられている。それらのアイテム数を総合計すると、1,000点は軽く超えているだろう。数千点の薬と薬材が収納されているタンスということになる。
 
これを「ミニチュアの薬種商店」と捉えたことも的確で面白い。初期近代には薬種商店がワンダーランドになった。博物誌の発展、貿易世界の拡大、珍奇で大きなものの展示などが使われ、薬種商店が一つの新しいスペースとなっている。これが、日本の薬屋と少し違う感じがする。手元にあった『目で見るくすりの博物誌』で確認しただけだけれども、江戸時代の薬屋は独自の空間というより、商店の空間に看板や「百味箪笥」という薬剤を入れるタンスなどを置いた商業空間の一つという感じがする。また、日本で医者が往診するときに持ち歩く「薬箱」もあったが、これが「ミニチュア薬屋」かというと、ちょっと違う。薬屋をミニチュアにして薬箱ができるという感じではない。一方では、このアムステルダムの医師がもっていたこのタンスは「ミニチュア薬種商店」と考えていい。
 
本も高さが40センチを超えている大きな立派な本である。果実の標本箱と花の標本箱をしばらく眺めていた。ヨーロッパはもちろん、アフリカ、新大陸など、各地で原生する植物が世界中から集められ、このミニチュア空間に集められている。コーヒーの豆もあるし、キンチョウナもある。その自然の生き方ではありえない世界を経験が作り出す不思議な感覚が、18世紀の医療の一つの推進力であったのだろうか。
 

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青木允夫. 目で見るくすりの博物誌. 第2版 edition, 内藤記念くすり博物館, 2002