東京藝術大学大学美術館 藤田嗣治資料について

東京藝術大学大学美術館 藤田嗣治資料

 

英訳の仕事を一つほとんど仕上げたので、芸術新潮の2018年8月号の「特集 藤田嗣治の5人の妻たち」がとても面白かった。その中に、芸大の博物館の准教授である古田先生という方が書いている特別面白い企画がある。これは、藤田嗣治資料いうコレクションに基づく考察である。この資料は、5人目の妻であるが藤田君代(旧姓 堀内)が芸大に寄附した写真や日記など合計6,000 点である。古田先生によると、君代さんが残そうとした意図をもって残し、不要なものは処分し廃棄したのではないかとのこと。彼女の前に妻であった4人の女性に関する記録はいっさい存在しないという。この部分は、非常に分かりやすい。そして戦争中の日記なども原則すべて存在しないという。ここも処分されたのだろうとのこと。

1949年の5月15日の日記から引用しておく。「もう今週起つんだと君代は腹の中で相当な誇りも持って超越観も持っている事だろう。私が日本を出る時も、他の日本人が皆憐れに又馬鹿に見えた。人間は超越して群から抜きでなければ、渦の中でもまれて労れて死ぬ許りだ。人間として生きる以上は最上級のクラスに入らなければ意味はない。(中略) 子供もない二人はお互いに子供だ。一人が一人を可愛がって居ればいい。二人が駄々をこねて居ればいいのだ。子供のために犠牲になる親許りと言いたい世の中だ。(これは特に日本のことだが子供がそれほど親というものをそのように盲目的に孝行するか問題だ。私は夫婦愛というものを一番に挙げたい。老夫婦の仲むつまじい程みる目も美しい。昨夜も映画の観客で老夫婦が頭をつけあって腕をまわして何時間も抱いてみていて動かなかった。本当に羨ましかった」

今から20年以上前に、T.S. エリオットと妻の ヴィヴ (Viv )に関する映画が公開された。Tom and Viv という映画である。映画のストーリーとしては、少し気分が揺れ動いた程度の Viv が精神病院にぶちこまれて、その利益を生かしてエリオットが詩人として大成したというような話であった。その数週間後の新聞に、エリオットの二番目の妻でまだ生きている人物が出てきて、映画は事実と違い、彼女が持っている手紙などから察すると、本当の重い精神疾患だったと述べていた。

Tom & Viv - Wikipedia