敗戦直後の迷信の実態と国家の迷信という問題

迷信調査協議会, et al. (1949). 迷信の実態, 技報堂.
 
子宮頸がんとワクチンとの関係で女性の迷信の集団発生に関して調べている。敗戦の直後に文部省が日本全国の各地において迷信がどう信じられているかを組織的に調査し、その結果を発表したもの。1946年に調査が企画され、1949年に刊行されている。天文や妖怪やおみくじなどに関する面白い話もたくさんあるが、まずは医学と迷信と民間薬物療法に関する二つの章を読み、いずれも非常に面白かった。
 
医学と迷信に関して二つの重要な話。一つが、病気の折に迷信に従うのか、神様や仏様にお願いしたりおまじないをして、医者にかかったり薬を飲んだりはしないのかという質問である。全国の数字でいうと5857人に回答してもらった結果である。これを肯定して神様などだけだというのが2割、医者だけだと答えるのが8割と答えたという結果になる。医者派は、都市では85%、農村漁村では80%くらい。大学卒の親だと92%、学歴なしだと75%という多少の違いがある。ただ、文部省の質問自体がどの程度の厳しさを要求するのかということもよくわからないし、これは子供を通じて家に配ったという過程があるので、どの程度厳密に考えられるのかはわからない。確実なのは、日本全国で医者や薬が優勢であったということである。医者や薬の多くは、神様や仏様やおまじないに根拠を持つとされたことも事実である。
 
もう一つが憑き物の話である。結果に関してもアプローチの方法論に関してもとても面白い。医師の笠松章が書いた文章である。まず結果に関しては、憑き物はかなり強い。お化け、幽霊、悪魔に関しては、否定派がもちろん多い。都市が強く、大学卒が強いというパターンで、8割から9割以上がお化けを否定し、幽霊も7割から8割が否定している。しかし、憑き物については、否定派が全体で5割である。もちろん都市の近代性は強いが、それでも否定派6割であり、農村漁村では否定派は4割前後である。憑き物が現実性を強く持っている社会である。
 
アプローチに関しても面白い。笠松の文章によれば、これは精神病の患者が狐に憑かれる妄想を個人として持つことと、社会として狐に憑かれたと信じてお祓いを行うことは、社会心理学の考えを導入すればうまく説明ができる。妄想は個人的な現象で、迷信は超個人的で社会的な現象である。狐が憑くのだとともに信じる共同体が機能して治そうとすると迷信になり、それは疾病となった個人の問題であると考えると妄想となる。家族や村が迷信を保つ例が多いし、アジア・太平洋戦争の期間に多くの人々が持った「必勝への信念」は、その共同体が国家となった事例であるという。