藤原新也『東京漂流』とコレラとハンセン病

私の青春の写真家というのは藤原新也である。私にとって写真というのは、高校で写真部に入って少し撮っただけで、全然発展しなかった趣味である。それでも大学に入っても時々写真の雑誌を見ていた。その中で藤原の作品にはいつも引き付けられていた。留学したことでしばらく中断されたが、野鳥の会の無料の季刊誌 Torino に書いていることもあって、今でも藤原の文章と写真に強く惹かれている。
 
『町でいちばんの美人』の表紙の写真が、藤原がアメリカの田舎のバーで撮ってきた売春婦の写真だった。そこからなぜ『東京漂流』を買うのか、自分の頭の中での経路はよく分からないが、野鳥の会とは違う圧力が働いて、文庫本で『東京漂流』を買った。目次を見ていたら「コレラ」という文章があり、インドとバングラディッシュの国境のあたりの疫病の話だった。この文章は読んだ記憶にない。当時は医学史などと無関係だったからだろう。コレラハンセン病の話である。憶えていなかったのはとても恥ずかしい。