死体と生き埋めと「身体の歴史」のメリット

Steiner, George et al. アンティゴネーの変貌. みすず書房, 1989.
 
今年の一般教養は身体の歴史を教えている。これまで、医療の歴史、狂気と精神医学の歴史、疾病の歴史という三つの主題を教えていた。「身体の歴史」は今年から始めて、最初は多少の不安があったけれども、意外と教えるのが楽しい。一つの理由が、文化、社会、芸術を織り込むのが、他の主題に比べて楽しい話題になりやすいということがある。医療の歴史、疾病の歴史は、どうしても理系の話が多い。文学や人々の態度も、もちろん入れ込むことが可能だけれども、結構むずかしい。狂気と精神医学も、まだバランスが分からない部分が多い。身体の歴史は、文学などを自然に入れることができる。
 
これを強く感じたのは、シュタイナーのアンティゴネー論を読んでいて、18世紀から19世紀末にかけて人体が生き埋めにされ死後の人体と交流できる主題が、多くの人々の強い関心の対象になったという部分を読んだときである。一方にはエドガー・アラン・ポーの『早すぎた埋葬』や『黒猫』などがあり、医学や生命科学の領域では、18世紀の動物実験や19世紀の催眠術や死者との交流などへの「ほとんどヒステリックなほどの関心」となる。古典古代との連続があり、文系があり、理系があって、とても話しやすい。「身体の歴史」というのは、意外とうまくいく話題が多いのだなあと実感した。