アブラナが面白かった。これは英語で rape という。私が留学生だった30年ほど前に、カナダ人の学生と話しているときに rape という言葉が出てきて、向こうは普通にアブラナの話をしていて、私は混沌の迷路に入り込んでいた思い出がある。
西洋のアブラナと日本の在来種があり、前者は Brassica napus、後者は B. campestrisという。私の記憶にあるのは、おそらく B. nopus である。現在では、広大な農地一面に明るい黄色の花が咲いており、菜種油やキャノーラ油などのオイルが作られる風景がある。カナダと中国が一位と二位で、少し離れてインド、フランス、ドイツなどが頑張っている。日本も一度は明治以降に西洋から洋酒のアブラナを輸入して、1960年には20万ヘクタールまで増加し続けた。しかし、1965年にはそれが激減して半分以下になったという。農家としては菜種油を作って得られる収入が少なかったこと。でも、私はあちこちの田んぼの一角でアブラナの断片を見た記憶もあるし、チョウがアブラナで産んだタマゴを顕微鏡で見た記憶もある。
一方、寒冷地や山間でもまだ昔の在来種を栽培しているとのこと。京都では名物の花漬けにする畑菜、東北ではくくたち菜という。これは草川がこの文章を書いた1980年代である。昭和30年代以降、菜種油の需要が減ると菜種の作付けは激減し、一時は黄色い絨毯を敷き詰めたような景色はほとんど見られなくなったが、近年は観光用にノザワナを大規模に栽培して大正時代の名曲「朧月夜」で歌われた情景を再現しているとのこと。最近の観光は、歴史の史実とは大きく違うものを盛大に作っている。ここでアブラナをノザワナにすることは、まあそれもいいだろうと思う。
それよりも、アブラナは風景の中でも食卓の上でも、独特の力がある。西洋のアブラナや、その仲間のカブでも、ガレノスのアルファベットを見ると、まず、カブの根は非常によくない。体をぶくぶくさせ、肉体はぶよぶよし、有毒な体液ができてしまう。一方、それを調理した水は、痛風やしもやけを圧迫して直すことができる。根を砕いて塗っても同じ効果である。バラの油や少しの蝋を入れて、灰で熱するとしもやけも治すことができる。アブラナ、特にその種に関しては、それ自体はよくないが、カブを上手に使った場合と同じくらいの良い効果がある。種とワイン、あるいははちみつ入りワインと一緒に飲むと、毒に対抗する効果が大きい。
ジェラードの薬草誌によると、どのように調理するかが大切である。ウェールズのように生で食べるのか、他の地域のように茹でて食べるのか、あるいは焼いてしまうのかである。生だと身体に風と冷たい血液を生み出してしまう。茹でると、冷たさがだいぶ減るが、それでも湿っていて風がある。焼くと、乾燥させ、風も少なくなる。ちなみに、ハックニーでカブが作られ、ロンドンのチープサイド市場で売られるものが、ジェラードにとってはとても美味しいとのこと。