アメリカの精神病院の病床数が1960年代から70年代に激減して、多くの精神病院が放棄されたことはよく知られている。数千人を収容できた建築群が放置されて荒廃した画像を見たいのであれば、クリストファー・ペインのウェブサイトが印象に残るだろう。写真集も出版されているので、ご覧になるといいと思う。Payne, Christopher, Asylum: Inside the Closed World of State Mental Hospitals, with an essay by Oliver Sacks (Cambridge, Mass.: The MIT Press, 2009)
一方で、ヨーロッパでは、廃棄から新しい別の生命という経過を持つ精神病院もある。精神病院が高級ホテルやマンションに返信していくという側面である。ヴェニスの島にあった精神病院が高級ホテルになったり、ロンドンの著名な精神病院が郊外の高級マンションになるなど、廃棄された建築を別のものにするという方向である。
今回読んだ記事では、アメリカの精神病院の建築の一部が高級ホテルになり、別の部分は精神病院の遺跡ツアー用になっているとのこと。また新しい方向である。ニューヨーク州のバッファローの州立精神病院である。これは当初はヘンリー・リチャードソンとフレデリック・オルムステッドいう建築家・庭園家の設計によるものである。リチャードソンの建築スタイルは「リチャードソンのロマネスク」と呼ばれ、11世紀から12世紀に流行したロマネスクの建築を19世紀に取り込んでいるとのこと。また、オルムステッドはニューヨークのマンハッタンのセントラル・パークを設計した人物であるとのこと。セントラル・パークは、一回しか行っていないのですが、たしかに精神医療の空間として素晴らしいだろうなと思う。
彼が建築したバッファローの精神病院が1974に閉鎖され、建築物は廃墟となった。それらを改革したのが今回の新しい動き。建築物が13点あり、そのうち3点が高級ホテルになり、残りを過去を知るために訪問できるスペースになっている(らしい)。日本の精神病院やハンセン病の療養所も、このような方向を参考にできるのかもしれない。