テタニー、テタヌス、破傷風

今日の面白い事項は「テタニー tetany」である。これは19世紀の中頃にフランス語 la tétanie を訳した概念。体幹や四肢の筋肉が強縮して痙攣をしていることを主たる症状とするもの。この時期のイギリス医学はフランス医学に圧倒されてしまうので、そのまま tetany とした。これよりもずっと古い概念が tetanus である。基本的には筋肉が失調するという概念である。もともとはギリシア語の tetanos で、teinein は張りつめたという意味。 tetanus は英語では14世紀末からこの疾病の意味。
 
一番面白いところが、日本語/中国語では、これと似ている疾病の名前があった。それが「破傷風」である。筋肉とか緊張とか痙攣とか、そのようなヨーロッパでつけられてきた概念は一切存在しない。外傷の傷口から毒が入るという概念の疾病である。日本国語大辞典や角川古語辞典などを引くと、そのような中国医学の説明があり、後半は北里柴三郎も証明した病原菌
である破傷風菌の話になっている。
 
破傷風森鴎外の「カズイスティカ」という短編で美しく描かれている。西洋医学とドイツ医学を美しく描いている。中国医学や、それを学んで少し変わった蘭方を旧い医学に分類し、自分が学んだドイツ医学の正しさを論じる部分が多い。そこで破傷風が出てきている。tetanus であると考えて「破傷風」であると結論しているところが非常に面白い。