世界最古の植物園





 今日は無駄話を少し。

 学会の間の空いた時間を利用して、パドヴァの世界最古の植物園に行く。 植物園の詳しいHPはこちら。


 世界遺産にも登録されている Orto Botanico は、1545年にパドヴァ大学医学部の植物園として開設された。円を描いた高い壁の内側に四つの正方形を配した基本構成で、それぞれの正方形の内側はさらに細かい小区画に分かれている。この細かい小区画が、複雑な幾何学文様を描くように配され、それぞれの小区画には一種類ずつの植物が植えられている。美しいのは植物というよりむしろ構成であり配列である。

 パンフレットによると、現存する最も古い植物は1585年に植えられ、18世紀末にはゲーテが観察して記述しているヤシの木があるそうである。世界中に張り巡らされたヴェニスの通商圏から珍しい植物が集められ、栽培と実用化が試みられていたという。

 医学部の植物園だから当然だが、この植物園の一画には、薬草と毒性植物が集められたコーナーがある。毒性植物の名札には十字架が幾つか描かれ、その数によって毒性の強さが現わされている。しばらく前にひとみどんさんに教えていただいたナサニエル・ホーソーンの作品で、毒性植物の研究に打ち込む教授の話があったが、あの小説の舞台もパドヴァだった。 この作品を読んだときには、自然の豊穣のままに毒性植物が繁茂するイギリス型の庭園を思い描いていたが、この庭園のような、人間が作った秩序に従順に、几帳面な小区画を守りながら、その毒は人間を死に至らしめる植物も味がある。

 秩序と合理の円形庭園の外側には、野生と倒錯の食虫植物館が建てられていた。毒々しい赤の唇を広げて甘い蜜壺に昆虫を誘うハエトリウツボ、赤い糸状の突起から粘液を出してハエを取るハエトリモウセン、ヴァジャイナ・デンタータが植物になったようなハエトリソウ(これは英語で Venus’s Flycatcher というそうだ)。自分たちよりも高級な生き物を捕らえて貪りくらうこれらのおぞましくも美しい植物たちは、植物のファム・ファタールとして、さぞかし男性植物学者たちに憎まれ、そして彼らを魅惑したに違いない。

 中国由来のティーローズが一株あって、慎ましい白い花から匂い立つ上品でさわやかな香りがかぐわしかった。

 画像は食虫植物を中心に(笑)