ペストの世界的流行



 20世紀前半のペストについての金字塔的な研究である、ポリッツァーの書物を読む。Pollitzer, R., Plague (Geneva: World Health Organization, 1954). 同じ著者のコレラの研究書も、だいぶ前に紹介した。

 1890年代から約60年間、ペストが世界的に流行した。インドのように数千万人の死者を出したところもあるし、日本のように2900人の患者で済んだ地域もある。この時期は、ペストの病原体が発見され、感染経路が特定された時期でもあった。病気の拡散と、人間によるコントロールの両者が、世界各地で競争をしている状況と言ってもいい。このありさまを、包括的に描いた名著である。

 ポリッツァーの書物では日本には触れられていない(1954年には国連に加盟していなかったからだろうか)が、同じ時期の色々な国へのペストの侵入・伝播・常在化のパターンを較べてみると、日本の特徴がかなりくっきりと出てくる。

画像は、起源6世紀からのいわゆる「ユスティニアヌスのペスト」と、14世紀の黒死病の広がりをあらわす地図。 ル・ロワ・ラデュリーの細菌による世界制覇の話で授業をするときに便利な対比である。