老年学と文学

 老いの文学論の論文集を読む。文献はDeats, Sara Munson and Lagretta Tallent Lenker eds., Aging and Identitiy: a Humanities Perspective (Westport, Connecticut: Praeger, 1999)

 アメリカやイギリスにおける人文医科学 (medical humanities ) の興隆を考えると、「老いの文学研究」というトピックが栄えているありさまは容易に想像がつく。世界文学の古典は老いを主題にしたものであふれかえっているし、老いを主題にした作品は加速度的に出版、発表されているという印象を持っている。老年学のほうでも、文学研究と重なり合う、あるいは直接インスパイアされた手法を、中心的な概念として持っている。例えば「回想法」や「ライフレヴュー」といった概念は、自伝やストーリーテリングという文学の概念とほぼ同じである。別の場所でも書いたが、現代の臨床医学においては、「文学」が、あるいは少なくとも「物語」が、制度の中に組み込まれている。私はこれは総じていいことだと思っている。アカデミックな文学研究者にとっては、医学部や病院という新しい活躍の場を得ることができるチャンスであり、お医者さんたちにとっては、仕事のために勤務時間中に大威張りで小説を読めるようになる(笑)。 あ、そうそう、realmedicine さんは、アメリカで「医学と文学」というような授業を取りました? 

 文学でなくても映画でもいい。精神医学者のエリクソンが「ライフサイクル」の概念を発展させた重要な論文では、ベルイマンの「野いちご」という映画がインスピレーションの役目を果たしているそうである。私は寡聞にしてエリクソンの当該論文にもベルイマンの「野いちご」にも接したことはないけれども、後者についての映画評を読むと死ぬ前に見なければならない映画の一つらしい。

 「老年医学と文学」はアカデミックにもビジネス的にもこれからの日本で成長産業だろう。