医療人文学の日本版は可能なのか

Heartfelt images: learning cardiac science artistically | Medical Humanities

 

イギリスのBMJ の医療人文学系の主題の論文を集めた雑誌 Medical Humanities に面白い論考。これは芸術系の論考で、医学生と歯科学性に心臓に関連するアート作品を制作させて、その作品を論じ、教育的な効果を論じたものである。学生の作品制作の主題に応じて、解剖系、生理・病理系、運動系などに分けてみたという。歯科学の学生は、手仕事とコレオグラフィーを重視したとか、面白いことが要約に書いてあった。(本文はまだ読んでいません)
 
これは、イギリスとアメリカで医学教育の一つの新しい柱になった医療人文学 medical humanities の仕事である。これは、幾つかの新しい学問が複合して一つの制度的な教育の形になったものである。その新しい学問は、1970年代から新しい転換を迎えた、生命倫理学、医学史、医療人類学、医療社会学STS、医学と文学、医学と芸術などである。これらは、それぞれ独立した学問の領域で発展してきたが、およそ20年から30年の発展と深化と拡大を経て、医学教育と制度的な関係を持つようになった。ちなみに、私個人のキャリアでいうと、私が学んだのは医学史で、歴史学者と医学部出身の医学史・科学史の研究者に教わっており、medical humanities の制度の中の学生だったわけではない。というか、この教育のシステムができたことを私が実感し始めたのは、つい最近のことである。
 
このフォーマットは、医学部や医学校、あるいは看護学部などで教えられるものである。私は医学部の教員ではないので、はたしてそんなことが日本の医学部で可能なのかどうかよくわからないが、明るい条件と、乗り越えなければならない問題の双方を書いて置く。
 
まず明るい条件。教えることができる若手の研究者がたくさんいる。私のように外国のしかるべき領域で教育された研究者も多い。日本の歴史学科、哲学科、社会学科、文学科などで教育された研究者もたくさんいる。彼ら・彼女らはこの主題を専門として、青春を掛けてきた。医学部の皆さんが、同僚の(あるいは年長の)お医者さまについて時々口にされる「何々先生が歴史に詳しい」といわれるときの詳しさとは、深さと質が違うことは信頼してほしい。
 
一方で、乗り越えなければならない問題。この研究者たちが持っている「医学系の能力」、つまり医学部や歯学部や看護学部で学生に教育するためのスキルである。私個人はそれを習っていないが、外国にはその仕組みがある。しかし、人文社会系の大学院生に教える仕組みは、おそらく日本にない。あるとしたら、教えていただきたい。教育の経緯と個々の力の差があるだろう。それができるような教育の仕組みで教育されてきた学者もいるし、そうではなく人文社会科学オンリーの環境で育ってきた学者もいる。前者の力を伸ばし、後者をどうにかすることが、どうしたらできるのか。医学部と人文系・社会系の学部の双方を持っている大学であれば、何かができそうである。