坂部恵・和辻哲郎論

必要があって、和辻哲郎論を読む。文献は、坂部恵和辻哲郎 異文化共生の形』(東京:岩波書店、2000)

坂部恵は、あまり著作の数が多くなく、直観的にすっと入ってくるエレガントな表現で深い内容を語ってくれる哲学の先生として人気があった。何よりも、著作にひらがなが多いのが嬉しかった(笑) 坂部による和辻哲郎論が文庫で出ていて、いま和辻の『風土』についてのヒントを求めているので、喜んで必要な章を読んだ。

『風土』は「生きられた空間論」である。主体の外にある対象としての自然環境についての記述ではない。親密さや敵対性といった「相貌」をおびた環境論である。それは和辻の「身体論」でもある。風土もまた人間の肉体なのである。そしてそれは和辻の個人的な体験と直観に基づいて書かれている。というのが坂部による『風土』のまとめである。メルロー=ポンティやバシュラールなどを軸にまとめられていて、だいたい納得した。私が欲しい方面からの考察ではなかったけど。