「熱帯出身労働者」という医学カテゴリーの創出についての論文を読む。文献はPackard, Randall M., “The Invention of the ‘Tropical Worker’: Medical Research and the Quest for Central African Labour on the South African Gold Mines, 1903-36”, The Journal of African History, 34(1993), 271-292. 彼の論文はどれも論点がシャープで優れたもので、何度も記事にさせていただいている。
20世紀初頭の南アフリカの金鉱で、中央アフリカ出身の移民労働者の死亡率が突出して高いという観察から、当局(鉱山局の現地人課とでも言うのだろうけれども、これはよくわからない)が鉱山会社を指導して改善することを命じた。それに対して、会社は腸チフスのワクチンで有名なオルムロース・ライトをイギリスから招いて、最大の死因だった肺炎のワクチンを開発・研究を行った。(このワクチンは結局実現しなかったそうだ。)この会社側の「対策」は、労働環境の改善はより高くつくオプションだったのに対し、ワクチンの開発研究は安価だったからという動機によって説明されている。(現在ではおのおのの費用は逆転しているような気がするけど、どうなんだろう?)
この論文は、そういった狭い意味での経済的な説明よりもさらに観点を広げた視点を取っている。中央アフリカ出身の労働者は、その身体に特別な脆弱性を持っているという医学的な言説を作り出すことで、ある地域の人間が特別な特徴を持ち、それがアイデンティティを付与する作用があったというフーコー流のアプローチを取っている。