必要があって、平安時代から室町時代にかけての瘧の治療を論じた論文を読む。文献は、上野勝之「日本古代・中世における疾病認識の変容―瘧病史点描―」『京都大学総合人間学部紀要』9(2002), 99-116.
私の乏しい日本の古代・中世医学史の知識では、平安時代というのは「瘧」に限らず、色々な病気の原因が「モノノケ」によると思われていた時期であり、それに応じて「加持祈祷」が盛んに行われていた時期であった。この論文を読んで、話はそんなに簡単ではなかったこと、そして病気・時代によってもっと細かい分析をしなければならないことを改めて確認した。
この論文のポイントは、モノノケと鬼という二つのタイプの病因を区別して、瘧は「鬼を追い出す」治療法であったために「加持」が行われたこと、しかしこれはモノノケと違って、何かに「移す」ものではなかったこと、また、鎌倉時代になると、特定の病因に対応したものではなく、「非特定的な」祈祷を数多く行うことが一般的になったこと、そして、このショットガン的・多方向な治療手段の拡大の中に、医者による瘧の治療も含まれるようになったという。ある病気の治療を医者に頼ることは、中国医学の合理的な世界観が受け入れられるようになった証であると、なんとなく思い込んでいた自分の浅はかさが恥ずかしくなった。