三島由紀夫『殉教』

出張の飛行機の中でもう一冊三島を読む。死の直前に自選した短編集『殉教』である。

抜粋を二つ。

人は自分の夢を語ることはできるが、自分が夢自体であうという感じを巧く語ることは決してできない(「スタア」)

孔雀という鳥の創造は自然の虚栄心であって、こんな無用のきらびやかなものは自然にとって本来必要であった筈はない。創造の倦怠のはてに、目的もあり効用もある生物の種々さまざまな発明のはてに、孔雀はおそらく一個のもっとも無益な観念が形をとってあらわれたものに違いない。(「孔雀」)

冒頭の「軽王子と衣通姫」(「かるのみことそとおりひめ」と読む)が圧倒的に好きだった。昭和22年に発表されたもので、古事記日本書紀万葉集の語彙を使って当時の夢幻的で残酷な恋と死と叛乱の物語を描いたものである。

関係ないことを書くと、三島にこういう作品があったことも手伝って、記紀万葉の秀逸なパロディを含む『家畜人ヤプー』が、三島その人の作品であるとささやかれたのかな。