小南又一郎『捜索用法医学』(京都:カニヤ書店、1926)

京都帝国大学の教授が、警察むけに書いた法医学の書物。警察だけでなく、いわゆる探偵小説ファンに向けて書いたのかもしれない。細かい証拠や血痕から殺人か自殺か決めることができるという話は、「小南の事件簿」に入れていいかも。戦前から戦後の法医学の教授は、マスコミの誘惑と戦うのが大変だっただろう。

犯罪の多くは不完全な精神をもつものによって行われるから、犯罪がおきて犯人を捜すときには、まず精神異常者に目を向けるのが当然である。精神を情意知の三つに分けて、それぞれが独立に侵されることがあると考えると、情だけ侵された精神異常者は、犯罪についてはむしろ常人より巧妙に行うことができる。それを精神病だというと、精神病患者にこんなに利口なことができるかと怒られるが、それは精神病というものを誤解しているのである。ヒステリーは一種の性格異常で自己中心的。女ばかりだと思われていたが、男にも少数いて、「外傷性ヒステリー」や「年金ヒステリー」は、損害賠償が支給されたら、すぐに病気が治るものである。