Mortimer, Ian, “The Triumph of the Doctors: Medical Assistance to the Dying, c.1570-1720: The Alexander Prize Essay”, Transactions of the Royal Historical Society, 15(2005), 97-116.
イングランド南東部の遺言関連の文書18,000点を検討して、そこに含まれる医療の出費のパタンを分析することで、17世紀に死に至る病における医療への受容がどう変化したかをさだめ、その変化をどう解釈できるかを論じた優れた論考。特に変化の解釈については、宗教と経済の関係という近世の歴史家にとってはウェーバー以来の古典的な問題である。
死期において医者を呼ぶことは17世紀に激増した。16世紀末と18世紀初頭を較べると、階層によって異なるが、4倍から12倍の頻度で医者が呼ばれている。治療者の数自体はそれに対応するほど増加しておらず、医者が末期の臨床に呼ばれる頻度が増えている。書類の中で医者は doctor と呼ばれるようになった。これは、もちろん字義どおりには大学でのMDのことだが、実際にMDでない外科医療者についても、この称号が使われている。かつては最高位の職業の呼称が使われるようになったということは、死に直面した時の医療がより尊敬されるようになったと言ってよい。キリスト教の spiritual physic と並んで、実際の medicine も尊敬されるようになったのである。死が現世との分離であるとすると、そこには 個人としての生という主題が現れるなどなど。