キャサリン・コックス先生とヒラリー・マーランド先生が書かれた刑務所と精神病院(アサイラム)の関係に関する論文。19世紀のイングランドが事例だと思う。必読論文である。いまであれば自由にDLできる状態だと思う。
精神病院と刑務所の二つはある側面で深く結びついている施設であり、精神医学と刑務所関連の医学とは深く結びついている。現在のアメリカの精神医学の問題の神話的な作品である『カッコーの巣の上で』は、実は精神疾患でなく刑務所に入っていた人物に関する映画であり、刑務所に収容されていた人物の映画であることは多くの皆さんが知っているだろう。日本においては、大正や昭和戦前期には精神医学者が刑務所の医学をリードしたという事実もあるし、公私の双方の都合で、精神病院が刑務所がわりに用いられた事実も存在する。現在のアメリカでは、精神病院を閉鎖したのち、慢性化した患者が多数にわたって収容されているのが刑務所である。
一方で、精神病院と刑務所は、18世紀末から19世紀初頭にかけては、両者は厳密に二つの別の施設であり別の理念を持つと考えられるべきだという分離説が唱えられた。古い体制においては、精神病院という施設がまだ未発達であり、刑務所に患者を入れることが日常的に行われていた。そこから新しい体制に移行するときには、精神病院と刑務所の根本的な異なりが唱えられた。精神病院では処罰は基本概念ではないし、刑務所では規律の概念がより強い。
この二元論は理念であり、現実の患者の処理については別の原理があった。いずれも隔離する施設である。症例誌を読めば、イギリスでも日本でも両者の移行が実現するケースも多い。私が今回書いている書物では、日本を事例にして、両者の関係について書く。世帯の視点から見て恥さらしである世帯のメンバーを精神病院に入れるケース、公けの視点から見て犯罪のリスクが高いが刑務所には入れられないものを精神病院に入れるケース、それもいずれもかなりの年月にわたって入れる例などを用いる。