折口信夫『身毒丸』


出張の移動時間中に折口信夫の「身毒丸」を読む。中公文庫で、『死者の書』と一緒に収められている。

能楽師の身毒丸は美しい。「細面に、女のやうな柔らかな眉の、口は少し大きいが赤い唇から溢れる歯は貝殻のよう」である。しかし、その身体には、代々の業病の血が流れている。浄い生活をしておれば発病することはないが、女を知るとその病気を発し、身体は紫色に腫れ、蝦蟇の肌のような斑点が現れる。身毒丸の父も、ある女のために堕ちて、そののち数十年してこの病を発し、息子にその醜い身体を咎められて姿をくらました。身毒丸も10代の後半に性に目覚め、自分の芸を見に来た女性を意識するようになる。これを知った彼の師匠は、自分が稚児として愛していた身毒丸が業病を発するのを恐れ、身毒丸に自らの血で経を書写するように命ずる。師匠の命に従って経を写す間にも身毒丸は女人の幻に苦しめられ、完成した写経をみた師匠は、その血の色が「こころなしか、少し澱んでいる」のを見破る。

この作品の制作年代(大正6年)を考え、性と関係あること、遺伝すること、数十年の後に発症すること、皮膚にむごたらしい症状がでることなどを考えると、この作品を少なくとも間接的にインスパイアした病気は梅毒だと考えて間違いない。血が病気を判定する材料になるところは、ワッセルマンに似ているとすら言うことができるかもしれない(笑)

蜷川幸雄演出・藤原竜也主演で話題になった「身毒丸」は、寺山修司が原作らしい。こちらはどういう話なんだろう?