バルト『象徴の帝国』

ベルリンの友人にもらったロラン・バルトの 『象徴の帝国』の英訳を新幹線の中でめくっていたら、自分が得意になって日本(東京)の街の特徴だとついさっき彼に説明したことが、だいたいそのままバルトに書いてあった。バルトは学生時代に読んだから、きっと、はるか昔にバルトで読んだことを忘れて、あたかも自分が気がついたかのように説明してしまったに違いない。あれは、意図しない剽窃だったのですよ、とここで言い訳しても仕方ないけど(笑)

いま手元に日本語訳がないけれども、「駅」と題された章に書かれていたことである。日本の通りには名前がついていなくて、人は、駅という往来の空間から、それぞれの場所を定位する。西欧の街が、教会やタウンホールや歴史的建造物などをランドマークにしているのに対し、日本の街は、「精神的に空虚な」駅、その内部にまで商業施設が密集した駅を基点にして測られるという議論であった。たしかに、どこかに初めて行くときに、私は、降りるべき駅を調べて、あとは表示に従って歩いていく。(「A1出口:和光、ソニービル、三越」のような感じで)行き先にはもちろん住所番地があるわけだけど、それを調べたことなんか、めったにない。 ・・・とまあ、そういうことを得意になって話したら、それは全てバルトが書いていたことだった(笑)