必要があって、健康保険論のチェックする。文献は、新田秀樹『国民健康保険の保険者―制度創設から市町村公営までの制度論的考察』(東京:信山社、2009)
1938年に成立した国民健康保険においても、共同体を生成させ、その成員の紐帯を強めることが一つの目標となった。都市部や人口集中部では、工場や大企業を通じて健康保険の仕組みが形成され、これらの職域における共同体意識を強める手段でもあった。このような福祉のインフラから取り残された、小規模経営の農民や漁民たちからなる農漁村が、医療保険を利用できるような制度を整えようとしたのが国民健康保険である。
そのための仕組みは、財源の問題から税方式ではなく、市町村単位で組合をつくり、その組合が保険者となるのが最善だろうということになっていた。市町村単位の組合を保険者とすることは、実務的な問題と同時に、相互扶助の精神、郷土団結、隣保相扶の狙いを実現することもあった。これは、単なる経済的な施設ではなく、江戸時代のムラで作られ、明治以降も利用され発展させられた隣保の団結を助長する、国家的な組織であった。