ゲーテ『きつねのライネケ』上田真而子編訳・小野かおる画(東京:岩波書店、2007)
中世の狐物語にヒントを得て、ゲーテが1793年に書いた叙事詩である『ライネケ狐』を、日本の子供向けに手を入れた編訳した作品。
原作も忠実な作品も読んでいないが、この子供向け翻訳はとても優れた作品だと思う。もともとは詩であるが、それを散文で訳したことも成功の一つの理由であろうし、小野かおるさんという作家・絵本画家のすばらしい作品がそれぞれの章の冒頭を飾っていて、これらがどれも深い味わいのものである。これは版画だろうと思う。それだけでなく、小野かおるさんの銅のレリーフの写真が表紙を飾っている。これは1メートル四方の大きな銅の板にライネケ狐を主題にしたレリーフに描き、それぞれの章ごとに合計で12枚作った作品である。完全な作品の展示ではないが、ネット上で見ることができる。
http://www.labo-party.jp/hiroba/top.php?PAGE=sugano&MENU=UPAGE&UP_ID=8001
物語がいわゆる子供向けではないことは有名である。近現代の子供向けのお話のような勧善懲悪性がない。古代のイソップの寓話のような成功の秘訣の主題もない。全体の話としては、身勝手で日和見で嘘つきで変節漢のライネケが、最後には成功してしまう話である。12の個々の物語のいずれも、ライネケが面倒なことになっては、その場その場をうまくごまかして、ある時には王様であるライオンをだまし、ある時には他の動物をだまし、ひどい場合には登場人物の動物をだまして食ってしまったりしながら、ライネケが良い目を見る話である。