Entries from 2012-03-01 to 1 month

日の当たる道を歩いた精神医学教授

台弘「内村祐之―臨床家、研究者、指導者―」『臨床精神医学』13(1984), no.10, 1259-1265.「日本の精神医学百年を築いた人々」というシリーズの中の一つ。東大精神科の教授職を追われた台弘が、先々代の教授である内村を語るという「濃い」企画であって、冒頭…

精神障害の出現頻度

1953年に国立精神衛生研究所が出版した『精神衛生資料』に、精神障害者の出現頻度についてのこれまでの調査の一覧表が掲載されている。この時期は、精神病者への対応が大きく変化する時期であった。1950年に制定された精神衛生法によって、それまで精神病者…

内村祐之『精神医学者の滴想』

内村祐之『精神医学者の滴想』(1947; 再刊 東京:中公文庫、1984)内村が昭和22年に刊行した。一般の人々や医学生のために専門に関することがらを書いたものが少したまったので一書に纏めたものである。「序」によれば、通俗的なものから半ば学術論文のよう…

内村「アイヌの内因性精神病について」

アイヌのイム論のまとめの前に、その他の精神病についての論文をまとめます。内村祐之・石橋俊実・秋元波留夫・太田清之「アイヌの内因性精神病と神経系疾患(アイヌの精神医学的研究 第3報)」『精神神経学雑誌』45(1941), 49-100.昭和9年から12年にかけて…

内村「アイヌのイムについて」(4)

「イムの話―アイヌの奇病」(昭和8年 東京朝日新聞)アイヌのイムバッコ(イムを起こす老婆)は、普段は普通の人々と少しも変わらないと周囲が口をそろえて言い、性質などに偏ったところは全然ない。むしろ、内村らが観察した範囲では、有能多才の婦人が多く…

内村祐之「アイヌのイムについて」(3)

内村祐之「アイヌのイムについて」(3)イムは、クレペリンやクレッチマーが言うところの、心因性反応である。驚愕、破綻、災難その他の機会に対して、人間は自己防衛の反応をする。これは、生物一切に通じる反応であり、「運動暴発」と「擬死反射」である。(…

内村「アイヌのイムについて」(2)

内村祐之「アイヌのイムについて」(2)111名の患者のうち、1名を除いて全員が女性であった。男性のイムについては十分に調査したが、北海道にはついに一名も発見することができず、逆に樺太では、5名のイムのうち1名が男性であるということになった。年齢分布…

内村祐之「アイヌのイムについて」(1)

内村祐之・秋元波留夫・石橋俊実「アイヌのイムに就いて」『精神神経学雑誌』42(1938), 1-69.20世紀の初頭から、ドイツ精神医学において「比較人種精神医学」が成立した。精神疾患の発生とその現象は、外因と個人の要因だけでなく、人種、民族、文化、時代相…

18世紀の自画像とコンドーム

ロンドンのRAでゾファニー展をしていて、イギリスのメディアは、この18世紀の画家の話題で満ちている。その中で、RA友の会の機関誌もTLSも取り上げていた見逃せないエピソードが、ゾファニーが自分の自画像の中にコンドームを描きこんでいたことである。これ…

『トップ・ハット』(1935)と反騒音同盟(1933)

飛行機の中の映画の中で「クラシック」という分類があって、その中にチャップリンなどと並んでフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの『トップ・ハット』(1935)があった。もちろんダンスが中心の白黒のロマンチック・コメディで、デートにぴったり…

ハッキング "Making Up People"

Hacking, Ian, “Making Up People”, London Review of Books, vol.28, no.16, 17 August 2006.イアン・ハッキングの「ループ効果」(looping effect) は、人間科学の歴史を研究しているものにとって、とても重要な主題である。私はMad Travelers の外に、ハッ…

松原洋子「優生保護法という名の断種法」

松原洋子「日本―戦後の優生保護法という名の断種法」米本昌平他『優生学と人間社会』(東京:講談社, 2000)に所収された、松原洋子「日本―戦後の優生保護法という名の断種法」を読み直す。いまから12年前の2000年に出版された書物である。2000年というのは…

アジア医学史学会演題募集

第六回・アジア医学史学会・Call for Papers2012年12月13・14・15日に慶應義塾大学・日吉キャンパスにて、第六回・アジア医学史学会を開催いたします。演題・パネルの募集を行います。学会の公用語は英語となります。みなさま、ふるって英語のアブストラクト…

神経衰弱の治療と悪魔祓いの同形性

1929年のイギリスで、心理学を学び、人気がある精神療法の治療所を経営していたバーンズなる人物の患者が、『神経衰弱への挑戦』というタイトルで、自分が受けた治療の原理がわかるような記述をしている。それによれば、神経衰弱という状態は、無意識が、本…

G・ベリオス先生(ケンブリッジ)の講演

医学史研究会のお知らせ5月22日の5時から、慶應義塾大学三田キャンパスで、ケンブリッジ大学の精神医学の教授、ハーマン・ベリオス先生にご講演をいただけることになりました。ベリオス先生は、ペルーに生まれ、オクスフォードで精神医学と哲学を学ばれまし…

ウェルカム博物館『脳』

ウェルカム博物館『私たちが脳にしたこと』ウェルカム博物館の新しい展示 Brains のサイトのイメージ・ギャラリーをゆっくりとみる。いつものように素晴らしく高い水準の展示にため息が出る。http://www.wellcomecollection.org/whats-on/exhibitions/brains…

『変態心理』よりメモ

諸岡存「ヒステリーと迷信」『変態心理』1(1917-8), 62-63 狐憑き、千里眼、魔術、降神術、こっくりさん、地獄極楽図などは、みなヒステリーの現象であり、一種の催眠状態である。聖母マリアも立派なヒステリー患者であり、人をだまし、人にだまされる。妖僧…

変態心理学講習会

第一回変態心理学講習会記事『変態心理』2(1918-9), 220-222.大正期の日本においては、精神病への興味が高まり、精神病院を訪問して患者を鑑賞することも行われていた。その一つが、変態心理学講習会が主催した「実習」である。最後の実習は、根岸病院で開か…

松岡弘之『隔離の島に生きる』

松岡弘之『隔離の島に生きる―岡山ハンセン病問題記録集 創設期の愛生園』(岡山:ふくろう出版、2011)ハンセン病患者自身の声を記録したものとしては、徳永進『隔離』という優れた書物があるが、この書物は、より歴史の実態に沿った素晴らしい記録を翻刻し…

式場隆三郎と精神病患者の芸術

大内郁「日本における1920~30年代のH.プリンツホルン『精神病者の芸術性』の受容についての一考察」『千葉大学人文社会科学研究』(16), 66-79, 2008-03.19世紀の中葉から、精神科医たちは精神病患者の「作品」に大きな興味を持っていた。それは、彼らが語っ…

精神医学の古典論文の翻訳集成

昨日言及した『現代精神医学の礎』は、時空出版から出た4巻本で、現代精神医学の古典的な論文を集めたものである。これらの論文は、もともとは雑誌『精神医学』の「古典紹介」のコーナーで、翻訳と解説をつけて紹介されたものを、主題別に分類しなおして書籍…

精神病患者は死なない

Andrews, Jonathan, “'Of the Termination of Insanity in Death', by James Cowles Prichard (1835)”, History of Psychiatry 23(2012), 129-136.History of Psychiatry には、「精神医学の古典」というコーナーがあって、重要なテキストなのに、初版の事情…

戦前日本の精神医療について

これまでの日本の精神医療の歴史記述の枠組みにおいては、ある制度の是非を論ずる視点が前面に出ることが多く、その制度の中の「格差」が問題にされることは少なかった。たとえば、呉秀三『精神病者私宅監置の実況及び其統計的観察』(1918)は、私宅監置の…

料理と家庭薬のレシピ・ブック

世界の有力な図書館では電子化の作業が進んでおり、ロンドンのウェルカム図書館も、しばらく前からコレクションの電子化に取り組んでいる。活字の書籍だけでなく、手稿類の電子化も進んでいる。その中には、ペルシャの美しい占星術の書物など、美しさを基準…

江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』

江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』角川ホラー文庫・江戸川乱歩ベストセレクション6「パノラマ島綺譚」と「柘榴」という二つの中編を収めている。前者は、1926年から27年にかけて雑誌『新青年』に連載された作品。ミステリーとしては、あたかも双子のようによく似…

佐藤浩章編『大学教員のための授業方法とデザイン

佐藤浩章編『大学教員のための授業方法とデザイン』(東京:玉川大学出版部、2010)学者・大学の先生向けのビジネス書で、私はビジネス書を読んだときの、虚偽の明るい希望に満ちた感覚が好きだから(お酒を飲んだときの気持ちに似ていませんか?)、この本…

江戸川乱歩『孤島の鬼』

江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫・江戸川乱歩ベストセレクション7『孤島の鬼』は1929年から30年にかけて雑誌『朝日』に連載された小説。主題は「退廃芸術」を体現したかのように、男性同性愛と遺伝性の身体障害という要素を濃厚に含んでいる。主人公の…

インフルエンザとその対策の長期変動

逢見憲一・丸井英二「わが国における第二次世界大戦後のインフルエンザによる超過死亡の推定―パンデミックおよび予防接種制度との関連」『日本公衆衛生雑誌』58(2011), 867-878.国立保健医療科学院の逢見憲一は、現在注目されている論客である。視点が広いと…

腰痛

昨日から、人生最悪のぎっくり腰です。

アンデルセン『影』

ハンス・クリスティアン・アンデルセン『影』長島要一訳(東京:評論社、2004)二重人格について基本的なことを知っておく必要があり、『ジキル博士とハイド氏』をはじめとする古典を読もうと思っている。アンデルセンの『影』は、言及されているのはよく目…