アメリカの社会心理学の確立者 J.M. Baldwin と20世紀初頭の「有色人種の売春宿」

Horley, James. "After 'the Baltimore Affair': James Mark Baldwin's Life and Work, 1908–1934." History of Psychology 4, no. 1 (2001): 24-33.

Smith, Roger. The Norton History of the Human Sciences. 1st American ed. ed. New York: W.W. Norton, 1997.

J.M. ボールドウィンは19世紀末から20世紀の初頭に活躍したアメリカの社会心理学の確立者のひとり。フランスの Tarde, le Bon, デュルケムなどの影響を影響を受けて、アメリカで理論的であると同時に実用的な社会心理学を始めた。児童や学校の問題を論じたとのこと。スミス先生の書物に的確に書かれている。学童の著作は明治期に日本語にも訳されている。

ふと気になったことが、彼が学問の世界を去った事件。ボルティモアのジョンス・ホプキンス大学に就任して、アメリカの社会心理学をさらに展開しようとしていたときに、同市の売春宿の手入れの時に店内で拘束され、その責任を取ってホプキンスを辞めたという。これはボールドウィン個人にとっても大きな事件で、それからアメリカの大学では教えていないし、フランスやイギリスやメキシコでも学問関連の仕事にはかかわったが、いずれも本格的な仕事ではない。重要な仕事は発表していない。生産性の絶頂は過ぎていたが、まだ力があった指導的な学者を、一撃で打ち砕いたと言ってもよい。

しかし、この事件の詳細について我々が知っていることはあまりに少ない。Horley の短い論文を読んでも、分かっていることはほとんどない。ボールドウィン自身は、自伝でもほとんど言及していないし、何がどうなってホプキンズを辞任したのか、それもよくわからない。

私が気づいたのは、この売春宿が colored brothel と呼ばれていることである。白人から見て、有色人種の売春婦がいるという意味だろうと思う。google でざっと調べても、そんな印象を受ける。画像の検索では、明治期の横浜の人気があった売春宿の芸子たちの写真などが出てくる。世界的な航海や、世界の港町での売春の発展の中で、そのサービスをアメリカでも提供する売春宿ができていて、ボールドウィンはその客だったということなのだろうか。それが、大学を辞任しなければならないようなスキャンダルということだったのだろうか。